賃貸物件のオーナーにとって、大規模修繕は避けては通れない重要な経営課題です。
しかし、工事期間中の騒音やプライバシーの問題から、「空室が増えるのではないか」「入居者からクレームが殺到するのではないか」といった不安は尽きません。

確かに、大規模修繕は賃貸経営における一時的な「ピンチ」と捉えられがちです。
しかし、適切な「空室対策」と「入居者対応」を行うことで、そのピンチを物件の資産価値と入居率を向上させる絶好の「チャンス」に変えることができます。
本記事では、オーナー様が安心して大規模修繕に臨めるよう、具体的な対策と対応をマニュアル形式で徹底解説します。

目次

なぜ大規模修繕中は空室になりやすいのか?

対策を講じる前に、まずは大規模修繕がなぜ空室リスクを高めるのか、その原因を正確に理解しておくことが重要です。
原因は、新規入居者と既存入居者の双方に対するマイナス要因に分けられます。

新規入居者へのマイナス要因

新たに部屋を探している人にとって、工事中の物件は敬遠されがちです。

  • 騒音・振動・臭い: 日中の工事による騒音や、塗装工事に伴うシンナー臭などは、快適な生活を求める入居希望者にとって大きな懸念材料です。
  • プライバシーと防犯面の不安: 足場が組まれ、作業員が窓の外を行き来する状況は、特に女性の入居希望者にプライバシーや防犯面での不安を与えます。
  • 日照・眺望の悪化: 足場と養生シートによって、部屋の日当たりや風通し、眺望が著しく悪化します。
  • バルコニーの使用制限: 防水工事や外壁塗装の期間中は、洗濯物を干せないなどバルコニーの使用が制限されます。

これらのデメリットは、他の競合物件と比較された際に、大きなハンデとなってしまいます。

既存入居者の退去リスク

同様の理由で、すでにお住まいの入居者にとっても工事期間は大きなストレスとなり、退去の引き金になる可能性があります。
特に、在宅勤務の方や小さなお子様がいるご家庭、夜勤のある方などにとっては、日中の騒音が耐え難い苦痛となるケースも少なくありません。
事前の説明不足や、発生したクレームへの不誠実な対応は、入居者の不満を増大させ、更新時期を待たずに退去してしまうリスクを高めます。

【空室対策編】大規模修繕を乗り切る3つの戦略

大規模修繕中の空室リスクを最小限に抑えるためには、計画的な募集戦略が不可欠です。
「工事中だから仕方ない」と諦めるのではなく、攻めの姿勢で取り組むことが成功の鍵となります。
ここでは、「募集活動」「賃料条件」「内見」の3つの柱で具体的な戦略を解説します。

戦略1:積極的な情報開示とメリット訴求による募集活動

工事中であることをネガティブに捉えるのではなく、正直に伝え、それを上回るメリットを提示することが重要です。

告知義務と誠実な情報提供

賃貸借契約において、大規模修繕の予定を必ずしも重要事項として説明する法的な義務はありません。
しかし、入居後のトラブルを避けるためには、工事の予定があることを事前に誠実に告知することが極めて重要です。
募集図面やポータルサイトの備考欄に「〇年〇月~〇月頃、大規模修繕工事実施予定」と明記しましょう。
正直に伝えることで、オーナーとしての信頼性が高まり、納得した上で入居してくれる質の高い顧客層にアプローチできます。

修繕後の「キレイな部屋」をアピール

「工事が終われば、新築同様に生まれ変わった外観の物件に住めます」という点を強力にアピールしましょう。
「外壁ピカピカ」「共用部リニューアル」「最新設備導入予定」など、修繕によって向上する資産価値を具体的に伝えることが効果的です。
入居者にとっては、工事期間中の少しの不便と引き換えに、長期的に快適で美しい住環境を手に入れられるという大きなメリットになります。

ターゲット入居者を絞り込む

工事の影響を受けにくいライフスタイルの入居者にターゲットを絞って募集するのも有効な戦略です。
例えば、日中は会社や学校で不在にしている単身の社会人や学生であれば、工事による騒音の影響は限定的です。
募集広告に「日中ご不在の方におすすめ!」といったキャッチコピーを入れることで、ミスマッチを防ぎ、スムーズな入居に繋げることができます。

戦略2:魅力的な賃料条件で差別化を図る

工事期間中のデメリットを補うためには、価格面でのインセンティブが非常に効果的です。
周辺の競合物件と比較して「お得感」を演出しましょう。

フリーレントの活用

フリーレントは、入居後一定期間(例:1ヶ月~2ヶ月)の家賃を無料にする契約形態です。
入居者にとっては初期費用を大幅に抑えられるメリットがあり、空室対策として非常に有効です。
大規模修繕の期間に合わせてフリーレントを設定することで、「工事期間中の不便さは家賃無料でお得になる」という強い訴求力を持ちます。

期間限定の家賃割引

フリーレントと並行して、工事期間中に限定した家賃割引も検討しましょう。
例えば、「工事終了までの期間、家賃を5,000円割引」といった条件を提示します。
これにより、入居者は工事の負担が金銭的に補填されると感じ、契約へのハードルが下がります。
家賃を恒久的に下げるわけではないため、オーナー側の収益への影響も限定的です。

敷金・礼金ゼロの効果

初期費用を抑えるという意味で、敷金・礼金をゼロにする、いわゆる「ゼロゼロ物件」も強力な武器になります。
フリーレントや家賃割引と組み合わせることで、競合物件に対する圧倒的な優位性を確保できます。
特に、引っ越しシーズンなど、多くの物件が市場に出回る時期には、初期費用の安さが決め手になるケースが少なくありません。

戦略3:内見時の工夫で不安を払拭する

内見は、入居希望者の不安を払拭し、契約へと繋げるための最も重要なステップです。
工事中というハンデを乗り越えるためのプレゼンテーションを心がけましょう。

工事の影響が少ない時間帯での案内

内見を案内する際は、可能な限り工事の騒音が少ない時間帯を選びましょう。
工事会社の現場監督と連携し、高圧洗浄やコンクリートの斫り(はつり)作業など、特に大きな音が出る作業がない時間帯や、土日など工事が休みの日を狙って調整することが理想です。

完成イメージが伝わる資料の用意

内見時には、修繕後の完成イメージパースや、新しくなる設備のカタログ、カラーシミュレーションなどを資料として用意しましょう。
足場とシートで覆われた現状だけでなく、「工事が終わればこんなに素敵になります」という未来の姿を視覚的に伝えることで、入居希望者の期待感を高めることができます。

オンライン内見の活用

遠方の入居希望者や、多忙で現地に来られない方向けに、オンライン内見を活用するのも一つの手です。
ビデオ通話で室内を案内しながら、工事の状況や修繕後のメリットを丁寧に説明します。
事前に工事の音が入る可能性があることを伝えておけば、誠実な対応として好意的に受け取られるでしょう。

【入居者対応マニュアル】クレームを未然に防ぎ、信頼関係を築く方法

大規模修繕を円滑に進めるためには、既存入居者への配慮が最も重要です。
丁寧な対応は、クレームや退去を防ぐだけでなく、オーナーと入居者の信頼関係を深め、長期的な安定経営に繋がります。
ここでは、時系列に沿った3つのステップで対応方法を解説します。

ステップ1:工事開始前の徹底した事前告知と説明

トラブルの多くは「聞いていなかった」「説明が不十分だった」という認識の齟齬から発生します。
工事が始まる前の準備と情報提供が、成功の9割を決めると言っても過言ではありません。

告知のタイミングと方法

工事開始の最低でも1〜2ヶ月前には、最初の告知を行いましょう。
告知方法は、複数の手段を組み合わせることが重要です。

  • 全戸への書面ポスティング: 最も確実な方法です。不在の世帯にも情報を届けられます。
  • 共用部掲示板への掲示: 工事期間中、常に目につく場所に掲示し、周知徹底を図ります。
  • 個別訪問や説明会: 可能であれば、直接顔を合わせて説明することで、誠意が伝わりやすくなります。

告知文書に盛り込むべき10の必須項目

告知文書には、入居者が不安に思うであろう点を網羅的に記載する必要があります。
以下の項目は必ず盛り込みましょう。

  1. 工事の目的と必要性: なぜ工事が必要なのか(建物の安全性維持、資産価値向上など)を丁寧に説明する。
  2. 工事の全体期間: 開始予定日と終了予定日を明記する。
  3. 作業時間帯: 「平日 午前8時30分~午後5時30分」など、具体的な作業時間を記載する。
  4. 工事の具体的な内容: 外壁塗装、屋上防水、鉄部塗装など、どのような工事を行うか。
  5. 騒音・臭いが発生する時期: 特に音や臭いが強くなる工事(高圧洗浄、塗装など)の期間を事前に知らせる。
  6. バルコニー使用制限の期間: 洗濯物が干せなくなる期間や、私物の移動をお願いする期間を明確に伝える。
  7. 安全対策: 足場の防犯対策(センサーライト設置など)や、作業員の教育について触れ、安心感を与える。
  8. 車両の出入りに関する注意: 工事車両の駐車場所や、搬入・搬出時の注意を促す。
  9. 緊急連絡先: 工事に関する問い合わせやクレームを受け付ける窓口(管理会社、工事会社担当者)の連絡先を明記する。
  10. ご協力へのお願いと感謝: 工事への理解と協力を丁寧にお願いする言葉で締めくくる。

工事説明会の開催

任意ではありますが、工事説明会を開催することは非常に有効です。
オーナー、管理会社、工事会社の担当者が一堂に会し、入居者からの質問に直接答えることで、不安や疑問をその場で解消できます。
質疑応答の時間を設けることで、入居者の声を直接聞く貴重な機会にもなります。

ステップ2:工事期間中のこまめな情報共有

工事が始まった後も、継続的なコミュニケーションが不可欠です。
「放置されている」と感じさせないための工夫が求められます。

進捗状況の定期報告

「今週は〇〇の作業を行います」「来週から塗装工事が始まるため、窓の施錠をお願いします」といった具体的な進捗状況や週間工程表を、週に1回程度のペースで掲示板やポスティングで知らせましょう。
進捗が可視化されることで、入居者は「終わりが見える」と感じ、精神的な負担が軽減されます。

相談・クレーム窓口の設置

事前に告知した相談窓口が形骸化しないよう、迅速かつ誠実な対応を徹底しましょう。
入居者からの連絡には、まず謝罪と傾聴の姿勢を示し、可能な限り早く対応策を提示・実行することが重要です。
小さな不満が大きくなる前に、早期に解決する体制を整えておきましょう。

ステップ3:よくあるクレーム事例と具体的な対応策

大規模修繕中には、様々なクレームが発生する可能性があります。
事前に典型的な事例と対応策を想定しておくことで、冷静に対処できます。

【ケース別】クレーム対応表

クレーム内容主な原因具体的な対応策
騒音・振動がうるさい高圧洗浄、コンクリート補修、足場の金属音など・特に大きな音が出る作業日を事前に告知し、理解を求める
・作業時間を遵守し、早朝・夜間の作業は行わない
・可能な範囲で低騒音型の機械を使用する
塗料や溶剤の臭いがきつい外壁塗装、鉄部塗装・臭気が発生する期間を事前に告知し、換気への協力を依頼する
・水性塗料など、低臭タイプの塗料の使用を検討する
・作業中は窓を閉めてもらうようお願いする
プライバシーが気になる足場の設置、作業員の往来・作業員への教育を徹底し、室内を覗き込まないよう指導する
・入居者には、日中もカーテンを閉めるなどの自衛策をお願いする
・窓用の目隠しシートを配布するなどの配慮も有効
洗濯物が干せないバルコニーでの作業、塗料の飛散防止・洗濯物が干せない期間を明確に告知し、最短期間で終えるよう工程を組む
・近隣のコインランドリー情報を提供する
・室内物干し竿などを貸し出す
防犯面が不安足場からの侵入リスク・足場にセンサーライトや防犯カメラを設置する
・作業終了後は、足場の出入り口を施錠・封鎖する
・入居者には、窓の施錠を徹底してもらうよう注意喚起する

家賃減額は必要?「受忍限度」という考え方

入居者から「工事で迷惑を被っているので家賃を減額してほしい」という要求がなされることがあります。
法的には、工事による生活への支障が「社会通念上、我慢すべき範囲(受忍限度)」を超えた場合に、賃料の減額が認められる可能性があります。

しかし、建物の維持保全に必要な大規模修繕は、入居者にも協力義務があると解釈されるのが一般的です。
そのため、オーナーが法的な減額義務を負うケースは稀です。

ただし、法的な義務がないからといって、一切応じないという姿勢は得策ではありません。
工事の長期化や、特定の部屋への影響が著しい場合など、状況に応じてフリーレントや一時金の支払いといった形で、協力への感謝を示す柔軟な対応が、良好な関係を維持し、退去を防ぐ上で効果的な場合があります。

大規模修繕を成功に導くためのパートナー選び

オーナー一人の力で、これら全ての対策と対応を完璧に行うのは困難です。
信頼できるパートナーとの連携が、大規模修繕の成否を分けます。

入居者対応に長けた工事会社の選定

工事会社を選ぶ際は、施工技術や費用だけでなく、「入居者対応の実績」を必ず確認しましょう。

  • 近隣住民や入居者への挨拶回り、説明会の開催経験が豊富か。
  • 現場の作業員のマナー教育が徹底されているか。
  • クレーム対応の専門部署や担当者がいるか。

これらの点を確認し、入居者への配慮ができる会社を選ぶことが、トラブルを最小限に抑えるための重要なポイントです。

オーナー様自身で優良な会社を見極めるのは簡単ではありません。例えば、マンション大規模修繕のコンサルティングで実績のある株式会社T.D.Sのような専門会社に相談するのも一つの手です。実際に依頼する際は、株式会社T.D.Sの評判や第三者の口コミなども参考に、多角的な視点でパートナーを選定しましょう。

管理会社との緊密な連携

管理会社は、オーナーと入居者、そして工事会社を繋ぐ重要なハブとなります。
工事計画の段階から管理会社と密に連携し、役割分担を明確にしておきましょう。

  • 告知文書の作成・配布
  • 入居者からの問い合わせ窓口
  • 工事会社への指示・監督

これらの業務を管理会社に委託することで、オーナーの負担は大幅に軽減されます。
日頃から良好な関係を築き、大規模修繕という一大プロジェクトを共に乗り越えるパートナーとして協力体制を構築しましょう。

まとめ:適切な対策で、大規模修繕を資産価値向上に繋げよう

大規模修繕は、賃貸経営において避けられない大きな出費と労力を伴うイベントです。
しかし、本記事で解説したような適切な「空室対策」と「入居者対応」を計画的に実行することで、ネガティブな影響を最小限に抑え、むしろ物件の価値を高める絶好の機会とすることができます。

工事中の丁寧な対応は入居者の満足度を高め、修繕によって美しく快適になった物件は新たな入居者を惹きつけます。
大規模修繕を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉え、満室経営と資産価値の向上を実現させましょう。

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